■ユーロ・ビジョンとドイツの「文化」
高松平蔵<在独ジャーナリスト>
昨年EU加盟国が15カ国から一気に25カ国に増えた。加わったのはチェコとかエストニアなど中東欧と呼ばれる地域の国々で、私が住んでいるバイエルン州などはチェコなんかと隣接していて東欧の玄関口として復活したかたちだ。九州が朝鮮半島や中国の玄関口になっているの思い浮かべると想像しやすい。
さてバイエルン州の中にニュルンベルグ、エアランゲン、フュルト、シュワバッハという隣接した都市がある。この4都市は経済や環境問題などいろいろな側面で連携することが多い。文化についても同様で1998年以降「ワーク・グループ」をつくって、共同の文化プログラムをあれこれ展開している。連携することでいろいろな調整が煩雑になるという側面もあるが、財政的負担を分散させることができるほか、地域全体の存在感を高めるということにもつながっている。
この4都市で3月から7月にかけて「ユーロ・ビジョン─カルチャー・プラス10」というプログラムが組まれた。目的は新しく加わった10カ国のことを知ろうというものだ。4都市の中で最も大きなニュルンベルグ(人口50万人)はかつて交通の要所として発展した街だが、EUの拡大でかつてのポ ジションが戻ってきたようなところがあるということも無関係ではないだろう。
こう書くと「ユーロ・ビジョン」も当たり障りのない「お上」主導の文化紹介のプログラムを想像してしまいそうだが、文学や映画、音楽、ダンスといった分野で展開され、その中身は濃い。また既存の、──たとえば毎年エアランゲンではARENAというダンス系のフェスティバルが行われるが、ダンスプログラムなどはこのフェスティバルと共同で行うかたちで相乗 効果を生み出している。さらに加盟国の1つ、キプロスに焦点を当てているのも大きな特徴だ。
キプロスは地中海の東端に浮かぶ島で観光地としても知られており、アジア・欧州・アフリカの交差点だが、大きな問題を抱えている。ギリシャ系とトルコ系の住民により島が南北に分断されているのだ。EUに加盟したのはギリシャ系のほうだ。さらには長年、トルコはEUに加盟したがっているのだが、なかなか前に進まない。大きな理由のひとつにキリスト教圏とイスラム圏が手を結べるかということがつきまとっているからだ。
キプロスはこういった問題の象徴的な島であるが、「ユーロ・ビジョン」では「ひとつの島として捉える」としている。文化の力ってこういうところにあるんだなあ、と思える部分だ。演劇のほかアーティスト、作家、ジャーナリストがいろんな視野から紹介。さらにギリシャ系・トルコ系それぞれ の「首都」の市長によるスピーチまである。「ユーロ・ビジョン」は政治的プログラムではなく、あくまでも文化プログラムだが、完全に切り離せるとはいえないとしている。さらに地元を省みると、プログラムの盛り立てる学校やボランティア、企業の協力も見逃せない。地域内の人的ネットワークを証明するかたちだ。
ドイツで文化といえば、芸術のほか教育、メディアといった分野を包括するような概念で扱われる。そして「保護」とか「伝統」ということよりも、もっと動的なものだ。このように比較的かちっとした「文化」観があるためにドイツの文化政策が魅力的に見えてくるという面があるわけだが、「ユーロ・ビジョン」はドイツの「文化」の範囲や姿勢が実に分かりやすく出たプログラムだと思う。
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「プログラムの多くはコーポレーションで成り立っている」。プロジェクト
責任者のゲオルグ・グラフ・フォン・マチュシュカ氏。P.A.N.通信 Vol.58掲載