■10万人都市の市営劇場の広報
高松平蔵<在独ジャーナリスト>
仕事柄いろいろな分野の記者会見に行くが、エリア的には私が住んでいるエアランゲンという街や隣接しているフュルト、ニュルンベルグぐらいのものだ。エアランゲンは自転車で移動することがほとんどだし、他の街へは自動車で15分から30分程度。本当に狭いエリアで動いている。人口規模でいえばニュルンベルグは50万人ほど街だが、エアランゲンもフュルトも10万人の小都市である。
こんな狭いエリアで記者会見が行われ、メディアが成立しているということも興味深いのだが、それに見合うだけのパブリック・リレーションのエージェンシーやら広報担当者というのもいる。しかもドイツは職業意識の高い国だ。広報担当者といってもジャーナリストと同じような専門教育をうけて、たまたま取材される側で働いている、というようなことも多い。博士号を持った広報担当者だって少なくない。
何を言いたいのかというと、それだけ分業化しているということなのだが、劇場や文化関係もしかり。ただどこの国でもそうだが、組織や個人によって仕事の質の違いはかなりある。
たびたびこの欄でも取り上げているフュルトの市営劇場は組織として非常に質の高いところで、その運営手腕をして「フュルト・モデル」とまでいわれる。それを支えている1人が広報担当者のベッティーナ・ヴィーマーさんだ。
彼女について私がまず証言できるのは新規のジャーナリストは見逃さないということだろう。ヴィーマーさんと出会ったのは98年。冒頭の3都市を網羅する大規模なダンスフェスティバルがあったのだが、彼女は日本人ジャーナリスト(つまり私)がフェスティバルをうろうろしていることを知った。そして早速声をかけてきた。以後、劇場の記者会見などでたびたび顔をあわせることになるのだが、コミュニケーション能力の高さを毎回感じる。
広報の仕事とは何かというと私の立場からいえば何人のジャーナリストと信頼関係を築けるかに尽きる。そもそも私にとって、運営手腕の高い同劇場がすでに興味深い取材対象なのだが、彼女が提供してくれる情報をそのうちに点ではなく線として見るようになってくる。
実際、彼女はオペラや劇場の専門紙なども含む100の雑誌・新聞の編集部と接点を持っており、年に数回は大きな媒体の編集部へ直接足を運ぶこともしている。さらに、広報に趣向を凝らすこともある。たとえば以前、倒錯的な衣装が魅力のロックミュージカルを上演したところ、前売り券の売れ具合がいまひとつ。女装愛好者たちに同劇場のディレクターと写真撮影をしたり、写真展を行なった。これはドイツ国内でも話題になり「PLAYBOY」からも問い合わせがきたという。
広報という仕事、おろそかにはできないものである。P.A.N.通信 Vol.55掲載