ゲスト: 伊藤千枝 (振付・演出家・ダンサー)

   聞き手: 小原 啓渡

伊藤千枝 プロフィール
珍しいキノコ舞踊団主宰・振付家・演出家・ダンサー
1990年、日本大学芸術学部在学中に「珍しいキノコ舞踊団」を結成。
以降全作品の演出、振付、構成を担当。
本公演のほか、映画、演劇への振付、出演、他のアーティストとのコラボレーションなど、その活動は多岐にわたる。
2000年、横浜ダンスコレクション ソロ×デュオCompetitionにて財団法人横浜市文化振興財団賞を受賞。

「創造とは何か」をテーマに、毎回様々なジャンルで活躍されているアーティストの方々にお話を伺っています。今回は3月に栗東芸術文化会館さきらでの久々の関西公演を控えた、「珍しいキノコ舞踊団」主宰・振付・演出家・ダンサーの伊藤千枝さんにインタビューしました。

小原
非常に抽象的な質問ですが、創造という言葉にどんなイメージをもたれるでしょうか?

伊藤
「創造する」は、何もない、ゼロのところからフツフツとわき上がって何かのかたちが立ち上がっていくイメージです。砂が一粒ずつ立っていってかたちが出来ていく。すごく細かくて、途方にくれてしまいそうな作業だと思います。

小原
何もない、ゼロのところというのは?

伊藤
イメージでいうと、砂漠みたいな感じでしょうか。画家さんだと何も描いていないキャンパス、キャンパスもない頭の中の出来事かもしれません。まだなにもこの世には存在していないところ、ということです。

小原
フツフツとわき上がってくる、のはどういった状況の時が多いですか?

伊藤
素敵な音楽や、気持ちのいい場所など、自分が好きなものに出会ったとき、何かに刺激されているのでしょうか。実際、フツフツとわき上がってくるときというのは、何でもないときが多いようです。例えば、家でボーッと音楽を聞いているときだったり、散歩にいって、土手(近所にある)とかでボーッとしているときや、テレビをボーッと見ているときなど、とにかくボーッとしているときに、ふとはじまったりします。
あと、公演をしようと思っている場所にいくと、色々あーだこーだと思ったりもします。公演する場所は、私にとってとても大事な材料のひとつです。

小原
ダンスを振り付けされる場合、どういうことを大切にされていますか?

伊藤
たくさんあるのですが、そのうちの1つを挙げます。そのダンスは、人(ダンサー)が踊るということを、忘れないことです。性格、容姿、声など、違う人たちが自分たちの身体で踊る。当たり前のことですが、とても大切なことだと思います。

小原
表現活動において、一貫しているテーマはありますか?

伊藤
昨年末から今年にかけて、キノコの海外公演(ショウケースなんですけど)など経て、ちょうど今、頭の中がグルグルしているところで、うまくまとまっていません。特にここのところは、敢えてそれをほっておいて、自然に行く方に任せて、様子を見ようと思っています。テーマではありませんが、私にとってダンスは手段ではなく(何かを書くための鉛筆や筆ではない、ということです)、ダンスそのものに取り組みたいんだ、といことはキノコ結成当時から言い続けていることです。

小原
表現の手段ではなく、ダンスそのものに取り組む、という部分をもう少し詳しくお話しいただけますか?

伊藤
表現の手段ではない、とは言っていません。例えば、絵画を描くための筆や絵の具ではない、また、古典バレエのような物語を語るものでもないということです。ダンスは、そのもの自体で大変すばらしいものであり、パワーがあり、謎もたくさんあります。私にとって、ダンスは他のものを表現する手段ではない、ということです。

小原
ダンスに興味を持たれたきっかけは何ですか?

伊藤
小さいときから踊っているので、気がついたら踊っていたという感じです。昔から、観るのも踊るのも大好きで、なぜこんなダンスマニアみたいになったかはよくわからないのですが、この興味は益々強くなってきていて、なくなりそうにありません。

小原
公演等で観客にダンスを見せる、ということにどういう意味を感じておられますか?

伊藤
もちろん観せているのですが、近頃では、同じ時間、空間を共有する、という意味の方が強く感じます。作品は観客の前で上演してはじめて作品となり、その場の空気を会話のようにやりとりすることで、どんどん作品は変化していきます。また毎回違う観客との出会いは、その意味において作品を変化、熟成させます。非常にわかりにくい感覚かもしれませんが、近頃の公演では以前より強くこの感覚を持つようになりました。その作品は常に変化していきます。故にライブだし、舞台なのです。すばらしいことだと思います。

小原
本日は本当に有難うございました。山崎広太さんにも以前このインタビューに登場して頂きましたが、お二人がどう踊られるのか、僕も1ファンとして公演をとても楽しみにしています。

P.A.N.通信 Vol.43 掲載