ゲスト: ディディエ・テロン ダンサー

   聞き手: 小原 啓渡

ディディエ・テロン プロフィール
抑制された日常的な動作の中から、人間のおかしみ、狂気、等様々なエッセンスを見事に表現する彼の作品は、ダンス界と演劇界双方から大きな注目を集め、世界中のフェスから招待を受けている。
ドミニク・バグエ、マース・カニングハムに師事。'86年、フランスのモンペリエにカンパニーを設立、主宰する。 '88年の処女作『パルチザン』で、冬季アヴィニョン・フェスティバルとヴェゾン・ラ・ロメヌ国際コンクールで共に一位を受賞する。
'96年、フランス政府派遣アーティストとしてvilla九条山に滞在、禅を学ぶ。
'01年「静岡春の芸術祭」招待公演のために来日。
ベケット作品に独自の解釈をもたらした『旅の道連れ』で大きな話題を呼ぶ。京都でも『ラスコリニコフの肖像』を披露。
5月後半には「静岡春の芸術祭」でのカンパニー公演を控えている。

「創造とは何か」をテーマに、様々なジャンルで活躍されているアーティストの方々にお話を伺っています。今回は、フランスを中心に世界的に活動を展開されているダンサー、ディディエ・テロンさんにお話を伺いました。

小原
あなたにとって創造とは何ですか?

ディディエ・テロン
私の内奥から沸き起こる「叫び」でしょうか。
ムンクの絵に「叫び」というのがありますが、まさしくあの絵は象徴的です。わたしにとって創造というのはテクニックやメソッドではなく、わたしの生命の奥深いところで起こっている何かを表現する行為、言い換えれば、私と私の外側にあるもの、社会との関係性の中で起こってくる内奥の「叫び」です。

小原
叫びという表現は非常に興味深いですが、その叫びをあなたの場合、ダンスで表現している・・・。

ディディエ・テロン
そうですね、私はダンスを通じて、私自身の奥深いところに何があるのか、何を表現したいのかをキャッチし、表現しようと試みます。未知の領域に踏み込む事は、恐怖を伴うものですし、時には何かを破壊しなければならない戦いのようなものでもありますが、私にとって新しい何かを発見したいという熱望はそれ以上に抑え難いものなのです。

小原
なぜ、ダンスなのですか?

ディディエ・テロン
私は何故自分がダンサーになったのか知りたいと思うのですが、実は良く分からないんです。(笑)
おそらく、ダンスを踊っていた祖父母の影響だと思いますが、それが絵画であっても音楽であってもあまり重要ではないと思います。重要なのは自身の内奥にある魂の叫び自体であり、それをどう表現するかです。

小原
ダンスにおける表現方法についてお話下さい。

ディディエ・テロン
私はダンスに関わる基本的な要素として「スペース」と「エナジー」と「タイム」というものをマース・カミングハムから学びました。私はそれらと「私の人生におけるバックグラウンド」と「新しいものを見つけ出し、表現したいという熱望」とをミックスさせる事で、新しい何かを創り出したいと考えています。
また、私がダンスを考察する場合は、振付家がどのようにスペースやエナジーやリズムを使い、どうストラクチャーを構成しているかに興味を持ちます。
表現したい何かをパブリックに、よりクリアに伝えるためにはストラクチャーが必要です。叫びは最も大切なものですが、それだけでは十分ではなく、どう見せるのかという表現においてストラクチャーは非常に重要で、ストラクチャーは「叫び」を確かにサポートするものだと考えています。
ただ、やはり忘れてはならないのは、創造とはストラクチャーやテクニックではなく自分自身の中から、内奥からやってくるということです。

小原
表現の上で、テクニックをどう捉えておられますか?

ディディエ・テロン
最初、私はダンスのテクニックを学ぶことに興味を持って、クラッシックを始め色々な種類のダンスのプラクティスを積みました。振付けに関しては誰にも従わず、自分だけのものを創りたいと思い、そのためにテクニックを肉体の経験として学んだと言えます。私にとってテクニックというのは表現をする上で、私をより自由にするものであって、そのテクニック自体を見せるものではありません。

小原
ストラクチャ−を構築することに関連して、即興についてどう思われますか?

ディディエ・テロン
私はどちらかというと即興よりも振付けを好みます。振付けによってダンサーは、時に即興以上に深い部分に入っていけると思っています。なぜなら、たくさんのものにではなく、与えられた一つのことに集中できるからです。即興とは私にとって、振付けをするための手段と言えるかもしれません。

小原
最後に創造に大切な事とはなんでしょうか?

ディディエ・テロン
現代は自分の中に多くの情報が流れ込み、様々な影響を受ける事になりますが、「私はこうなんだ」と誠実に自己を表現したいと思うなら、内奥の叫びに耳を澄ませ、リスクを恐れず試み続けること、コピーではない自分自身の道の上にとどまることが大切だと思います。

小原
創造とは「叫び」である。とても刺激的な言葉だと思います。本日は有難うございました。

P.A.N.通信 Vol.39 掲載